プレトニョフ:ラフマニノフのピアノ協奏曲 全曲演奏会第1夜を聴いて
ラフマニノフのピアノ協奏曲と言うと、数ある協奏曲の中でも特に華やかでドラマティック、ピアノもオーケストラも、ここぞとばかり大音量をかき鳴らす事も多いのですが、昨夜は「えぇ〜っ!!」と驚嘆するばかりの異次元の世界でした。誇張も妥協も一切なく、ただひたすら自身の表現を貫く演奏でした。
例えば、第2番のコンチェルトの第1楽章、出だしの8小節。おもむろに、何かが近づいてくるかの如く遅めに弾かれることが多いですが、プレトニョフは第1主題と同じテンポでサラッと弾いていました。「あれっ?」と思って帰宅後、楽譜を見てびっくり!! プレトニョフの演奏こそが、楽譜のテンポ設定でした。
第1楽章の後半、Allegro(アレグロ)になった部分も、普通だったらオケ対ピアノ!!、の如く大音量の合戦になるところですが、「ここのフォルティッシモはオケに任せるよ、僕の音は遠くで鳴ってるぐらいに聴こえれば良いのでよろしく.....」とでも言わんばかり。なのに、何故あんなに説得力のある演奏になるのでしょうねぇ.....
第2楽章は、まるで「天上の音楽」でした。ゆったりした美しい分散和音に浸る感じの音楽ですが、プレトニョフのピアノには、神と対話しているような、魂を吐露するような、誰にも立ち入れない静けさがあります。2楽章の終わりに近づくアダージョからの部分では、無数の星がまたたいている夜空がふと目に浮かび、ため息も出ないほど美しい世界でした。
第3楽章は、ピアニストのテクニックの見せ所でもあり、エネルギッシュさが前面に出てきがちですが、プレトニョフの手に掛かると、いとも軽やかで洗練された格調高い音楽になってしまいます。異次元の技術に裏打ちされているからこそ、なのですが......(*´◒`*) 背付きのピアノ椅子に時折り背中をもたせかけ、脱力した弾き方なのに、必要な音はちゃんと聴こえてくる絶妙のバランスで、確固たる計算の元、オケとのやり取りがなされていました。
心の内で真に感じて生み出される音のみで構成された“いぶし銀“のような音楽を、一糸乱れず観客が見守り、生きてて良かった..... と心から思えるひとときでした。アンコールのソロも、つぶやくように静かにゆったりと弾かれ、余韻に浸りました。
2023年09月14日 13:01