小説&映画「ある男」
以前、平野啓一郎さんの「ある男」という本を読み、それまであまり読んだ事がない内容でズシーンと来るものがあり、印象に残っています。この小説が映画化された当時、映画館で観ましたが、昨年3月の日本アカデミー賞では最優秀作品賞をはじめ、賞を総なめにしました。小説の中身や良さが損なわれない映像作品になっていると思います。最近その映画がwowowでも放映され、再度観てみました。考えさせられる内容や社会問題が絡み合っている作品ですが、こんな事が起こりうるのだろうか....と思う反面、いや、もしかして本当にあるのかも.....という説得力があります。
平野啓一郎さんは好きな小説家の一人でいくつか作品を読んでいますが、若干23歳で芥川賞を取られた作家さんです。一体この人はどういう育ち方をしたのだろうか?と、凡人では想像もつかない宇宙が頭の中にある方に思われます.....(-.-;) 芥川賞の「日蝕」他2作がロマンティック3部作の第1期、続いて第2期、第3期.....と時代の変遷があり、どんどん殻をぶち破って新しい世界へと発展していく作家さんで、ご自身を非常に客観視しておられる方のように思います。
画家も音楽家もそうですが、芸術家は、1つ良い作品を生み出せたとしても、それを自身で壊して新たな境地を切り開いていかないと、マンネリになってしまったり、それ以上に良いものが生み出せなくなる面があるかと思います。それまで生み出した作品と全く違うものを次々に創ることが芸術の奥深さに繋がるわけですが、私の好きな日本画家の速水御舟なども、若い時の作品と歳を経てからの作品が全く違い、驚くばかりです。ベートーヴェンも初期、中期、後期と、作品の中身がまるで変わっていきますね.....
以前、銀座のある画廊のオーナーのご主人と1時間ほど、偶然立ち話をした事がありました。ご主人曰く「画家は1点、優れた評価の絵を描くと、同じようなものをまた描こうとしたり、自身の絵をお手本にする意識が生まれて、伸び悩んで新しい絵が描けなくなることがある」のだそうです。感性の泉が常に豊かに水をたたえていないと、イマジネーションやインスピレーションのような危ういものは枯渇してしまうのかもしれません。日常的に何かに感動したり、自然に触れたり、旅先で驚きを覚えたり、本を読んだり....といった体験が、感受性を刺激する要素になるのだと思います。歳をとっても、いつまでも若々しい感受性を持ち続けたいものです......